奥多摩病院はすみっこに生きる私たちの灯台 双葉会診療所 片倉和彦
厚生労働省は先月、全国の公立・公的病院のうち診療実績が乏しく、再編・統合の議論が必要と判断した424の病院名を公表した。リストには奥多摩町国保奥多摩病院が含まれる。身近な病院がなくなったり縮小されたりするとなれば、地元住民にとっては大問題。奥多摩病院がいかに大事な存在であるかについて、双葉会診療所(同町海沢)の片倉和彦院長に原稿を寄せてもらった。
今、いろいろなところで効率化という言葉が聞かれます。たとえば、家単位で行う小さな農業よりも大規模で効率的な強い農業を、とか、小さな店を大規模な店に集約して、とか。
文部科学省は2015年に学校の再編統合を図り、3学級以下の中学校や6学級以下の小学校は統合再編を、バスで1時間以内の通学なら構わない、という方針を出しました。
さらに今年9月、厚生労働省は効率的ではない公立公的病院は統合再編を、という試案を出してきました。あたかも、非効率なすみっこは消えてなくなれと言いたいかのように。実際、奥多摩では最近地元のスーパーが閉店しました。
でも、すみっこには大事な意味があります。
★すみっこも合計すると大きい。星形の土地を考えてみてください。真ん中の五角形の部分よりも尖っているところの方が大きいですね。
★すみっこには木材、石灰岩、水源など大切な資源がたくさんある。
★すみっこはおいしい。奥多摩の畑は傾斜地で水はけがよく、治助イモなどのジャガイモがある。川にはマスやイワナがいて、山にはきのこや山菜があって。
★すみっこには守るべき役割がある。木の間伐をしっかりして土砂の崩壊を防ぐ。里山の管理をできるだけ頑張って、山の獣たちが里に来てしまうのを少し防ぐ。山火事が出たら何とか消していく、などです。
★を守るには、すみっこで生活していくことが必要です。そのために奥多摩病院は大切な存在です。一次救急として急病や怪我に対処する。総合病院のように各科に分かれて高度な専門性を発揮するより、人々の病状、生活状況に合わせた外来・入院・在宅治療をしています。
厚労省が再編の理由に挙げているように、病院の収益が十分なわけではないし、周産期医療などの条件を満たしているわけでもない。でも、奥多摩というすみっこの町で人々が暮らしていくためには、医学・看護・リハビリ・栄養のスタッフがそろっていて細やかに対処してくれる医療機関は必要なのです。
「井の中の蛙 大海を知らず、されど空の深さを知る」という和製格言があります。すみっこだからこそ見えるものがあります。