コロナ禍、文化継承に危機感 水と緑のふれあい館 奥多摩町 郷土芸能を伝える

鹿島踊の衣裳や用具の前で、文化財担当の神山さん

水と緑のふれあい館(奥多摩町原)に併設する「歴史民俗資料展示室」でこのほど、新型コロナの影響による1年余の休館を利用し、1998年の開館以来初めて大幅な展示替えが行われた。町の郷土芸能に関する展示にも注力。後継者不足により奉納できなくなった峰地区の獅子頭や、小留浦地区の花神楽、国指定無形民俗文化財の鹿島踊の衣装や用具が展示されている。町教育課文化財担当の神山正明さんは「観光客に奥多摩の文化を伝えるだけでなく、住民の方にも楽しんでもらえるように展示替えした」と話す。

町内では8、9月は各地区で毎週のように祭事が行われていたが、新型コロナの影響により2年続けて中止となった。神山さんは「奥多摩の夏は、祭りでにぎやかになる。祭りの時に帰って来る若者もいる。それを楽しみにする仲間もいる」と話し、祭りができないことで、住民の気持ちが沈んでしまうのではないかと危惧している。

中でも鹿島踊の継承についての危機感が強い。鹿島踊は、男性が女装し優雅に舞う。1950年代のダム建設により閉ざされた南、岫沢、日指集落で継承されてきた。鹿島踊が行われていた加茂神社はダムに沈まなかったが、集落への道が寸断されたことにより、全ての住民が町外へ移住し、集落を持たない社となった。

一度は祭りができなくなったが、解村式から20年ほど経った頃「年に一度、故郷に集まる機会を作ろう」と元住民らが小河内鹿島踊保存会を立ち上げた。会員は同村出身者とその子孫だ。

現在の会を担う若者たちにとって小河内は自分の生まれた故郷ではない。そうした状況で国の指定を受ける伝統の継承は容易ではない。会を運営するための資金、衣装や用具の修繕に掛かる経費などに補助金も活用しているが、会の負担も大きい。町の大切な文化を継承していくためにも、金銭的なサポートが必要だ。

神山さんは「後継者不足で継承が危ぶまれている地域が多い中、コロナ禍で祭りができないことは、文化継承にとって大きな問題。祭りは住民同士をつなぐ大事なものであり、来年こそは全町を挙げて盛大に開催したい」と話す。(鋤柄)