認知症とともに生きる(上) 5人に1人が有病者に いま私たちができることは
厚生労働省の推計では、2012年で認知症の人の数は約462万人。高齢化が進むにつれてこの数は当然ながら増え、18年には65歳以上の約7人に1人、25年には約5人に1人が認知症になると推計されている。政府は今年6月に認知症施策推進大綱を発表し、その中で「認知症は誰もがなりうるものであり、家族や身近な人が認知症になることなども含め、多くの人にとって身近なものとなっている」との見解を示した。認知症を患う人が当たり前に暮らす地域社会に向かって、私たちはいま何ができるのか。西多摩で日々、認知症と向き合い暮らしている人たちに話を聞いた。
突然家族が認知症になったら
正しい知識で早めの診断を
青梅市野上町の大西知恵子さんは「いきいきひだまりサロンの会」の代表として、同市を中心に認知症予防のためのさまざまな活動を行っている。もともと整体師で、リラクゼーションサロン「エアシャレン」を主宰してきた大西さんが、同会を立ち上げたのが約4年前。きっかけは母(93)が認知症になったことだった。
日々のサイン、予備軍の状態で対処すれば
「5年ほど前、ある日突然、『お金とったでしょ』と言われたんです。今思えば予兆もありましたが、気づいてあげられなかった」。
同じことを何度も聞いたり、社交的だったのに引きこもりがちになったり。「あれ?」と思うことはあったが、「病院に行くほどではないかな」と思っていた。ただそれはMCI(軽度認知障害)のサインで、認知症予備軍の状態。この時期に対処すれば認知機能を回復したり、進行を遅らせたりすることができるという。
認知症は環境の変化によるストレスでも進行が早まるともいわれる。「6年前に家を建て替えたことが症状を進行させたのではないか。認知症について私に知識があれば気をつけられたし、早めに専門医の診断を受けることができた」と振り返る。
どこに相談していいかわからず、ひとまず市役所に相談。そこから市の包括支援センターを紹介され、相談の後に成木台病院の認知症疾患医療センター(同市成木)に行くことに。診断は前頭葉側頭葉型認知症(ピック病)。症状は進んでおり、すでに介護サービスが必要な状態である要介護1の認定も受けた。
不安な気持ちが進行を早めることも
デイサービスを利用するようになり、知識豊富な介護スタッフや専門医とかかわる中で正しい知識を得られるようになった。認知症の症状は、不安な気持ちが進行を早めることも知った。
「日常的に同じことを何度も聞かれると、つい『また忘れたの』とか厳しい口調で言ってしまうこともある。でもそれが進行を早めるリスクが大きいことを知ってからは、『今までできたことができなくても当然。できないことは諦めて、できることまで取り上げないように』と心がけて、何でも笑って対処するようにした」。
介護する側のケアも大事
「症状が進むにつれ、母は夜と昼の感覚がなくなり、『何寝てるの。お腹が空いた』と、明け方に起こされる生活が何年も続いた」。
積み重なっていく介護疲れ、自分の仕事もままならなくなることに加え、無情にも緩やかに進行していく症状を日々目の当たりにする。「介護している人が無理心中をしてしまうというニュースをよく見ますが、その気持ちはよくわかる」という。「介護する側もつい引きこもりがちになりますが、認知症の家族が集まる会などもあります。同じ立場の人と話をすると一人じゃないと思えて、癒やしになる」と参加を勧める。
また、外出すると道に迷うため、近隣の人には「認知症なので見かけたら教えてください」と声をかけるようにした。中には「そんなことを周囲に言ったらお母さんがかわいそうだ」と助言する人もいたが「私は母の安全を第一に考えたかった」。いざというときに近隣の人がわかってくれているということは心の支えにもなった。
周囲の勧めで特養に入所、新たな生活築く
昨年、腸閉そくになって入院し、入院時のストレスからか症状が進行。要介護3に認定され、特別養護老人ホームに入所することになった。
なんとか自宅で介護しようと試みたが、周囲から強く勧められ決断した。「いまだに『家で見てあげる方がいいんじゃないか』と自分を責めることもあります」という。
入所後はなるべく施設に通い、母との時間を大切に過ごしている。「『こんなに来て大丈夫なの?』といたわってくれるんです。家にいたときはそんなことは一切なく、『いつまで寝てるの』とか言われていたのに」。 専門的な介護環境と献身的なかかわりが新たな関係を育み始めている。
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大西さんは認知症を予防したり進行を遅らせたりする方法「スリーA増田方式」のインストラクターの資格を持つ。月4~5回、ストレッチ体操や脳の活性化を促すゲームなどを楽しむ「ひだまりサロン」を青梅市、羽村市、あきる野市などで開催。認知症の正しい知識を広めるための紙芝居などを行い、啓蒙活動にも注力している。
ひだまりサロンは来月8日と29日に青梅市福祉センター第6集会室で、同14日と23日に同会拠点施設の新町サロンで、いずれも午前10時~正午、参加費800円で開催する。20日午前10時~午後2時には古民家むく(同市新町)でめがねケース作りを含むコラボ企画を参加費2800円(ランチ付き)で開催する。予約、問い合わせは090(8519)4370、iki2hidamari★gmail.com大西さんまで。(佐々木)
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◆認知症とは
正常に働いていた脳の機能が低下して記憶や思考への影響がみられ、日常生活に支障をきたしている状態のこと。いくつかの種類があり、アルツハイマー型認知症、脳血管脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症などがある。
代表的な症状として物忘れが挙げられるが、特徴は「何を食べたか思い出せない」など出来事の一部を忘れるのではなく、「食べたこと自体思い出せない」というように、起きたことすべてを忘れてしまうこと。外出を嫌がる、気力の低下、被害妄想、暴言や暴力をふるうようになるなどのケースもある。
イベント情報
認知症を知ろう語ろう
西多摩各地で認知症を知るためのイベントが行われ、認知症を患っている人やその家族、介護者が語り合う会が開かれている。掲載されているもの以外にも各地域で随時開催されているので、居住地の自治体や地域包括センターへ問い合わせを。
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◆青梅市介護予防講演会 認知症にやさしい地域をめざして 講師は厚生労働省老健局総務課認知症施策推進室室長補佐の井上宏さん。「共生」と「予防」の観点から認知症にやさしい地域について講演する。1月16日午後2時~3時半。青梅市役所2階会議室。参加費無料。先着90人(要予約)。0428(22)1111内線2127青梅市高齢者支援課包括支援係。
◆おうめ地域支えあいフォーラム~自分でできること、地域でできること~ 講師は(公財)さわやか福祉財団の岡野貴代さん。地域の支えあい活動推進への取り組みを紹介する。1月18日午前10時~正午。市役所2階204~206会議室。入場無料。先着100人(予約制)。0428(22)1111内線2127同。
◆認知症予防脳イキイキ教室 認知症予防の講話、脳を活性化する体操など。1月30日~2月27日の木曜日午後2時~3時45分。青梅市福祉センター第4集会室。対象は全日程参加可能な65歳以上で、要介護1~5の認定を受けていない人、医師から運動制限を受けていない人、認知症の診断を受けていない人、5月開催の同教室に参加していない人。参加費無料。先着15人程度(予約制)。動きやすい服装、運動靴で。筆記用具、飲み物持参。0428(22)1111内線2127同。
◆介護者相互の交流会オレンジカフェふっさ~認知症の方や介護をするご家族、介護に関心・興味のある方の憩いの場~ 飲食しながら参加者同士が交流できるカフェ。2月18日午後1時半~3時。福生市福祉センター内。参加費一人100円。定員20人程度。042(510)2945福生市地域包括支援センター熊川。