あきる野 木楽庵 故長井富雄さん 美しい木製譜面台を製作 新たな挑戦、匠の技で実現

自作のバイオリンを手にする故長井さん(左)と市川さん

あきる野市戸倉の木工房木楽庵を営む故長井富雄さん(68)は、3年ほど前から美しい木目を生かした木製譜面台の受注生産を行なっている。自身の音楽の趣味を豊かにしようと作ったものが商品になった。

樹齢300年ほどでないと見られないブドウのような木目の「葡萄杢」が入ったクス、目の詰まったヒノキ、スギなどの良質な材を譜面置きに使う。土台にはケヤキなどの堅木を使う。高さや角度調整も可能で、50年近くさまざまな木を扱い、大工として腕を磨いたからこそできる細工がされている。

日の出町出身。18歳から大工修行を積んだ。30歳の頃、自宅兼工房を建てたのをきっかけに独立。50歳の頃、大工で培った技術を生かしオーダーメードの家具製作を始めた。現在は古民家のリフォームや建具の修理、店舗看板なども手掛ける。

15年ほど前、八王子市でバイオリン工房を営む市川武邦さん(80)が、同市小中野にある木楽庵のショールームを訪ねて来た。銘木が並べられているのを見た市川さんから「バイオリンに使える材はないか」と尋ねられた。故長井さんは、古民家の框に使われていた古材のカエデと、目の詰まったヒノキを提供した。2年ほど経ったある日、市川さんがそれらの材で製作したバイオリンをお礼に届けてくれた。

音楽には興味がなかったというが、63歳の時「バイオリンがあるし、音楽でもやってみるか」と、音楽教室に通い始めた。楽しさに目覚め、演奏するだけでなく、バイオリンを作りたくなった。

週に1度ほど市川さんの工房に通い、バイオリン作りを学んだ。表板は最も薄い部分で厚さ2・7㍉。彫刻刀や鉋で丁寧に彫っていく。1年以上かけて完成させた。

自作のバイオリンで発表会に出ることになり、譜面台も手作りの物で演奏したいと製作。ぬくもりのある譜面台は音楽家から好評を得ているという。

「家具もバイオリンも譜面台も、新しいことに挑戦したいと思って始めた。演奏はなかなか上手にならないが、練習も頑張りますよ」と話した。

譜面台は8万円〜。問い合わせは042(595)0971まで。(鋤柄)