やさしい味  たべある記 あきる野 魚治 和食と鮨…自然食のパイオニア

本当は誰にも教えたくない。でも取材をお受けいただいたんだし、本当に良いものは読者に伝えなければ…。そんな葛藤を抱えながら、原稿を書いている。

あきる野市五日市の魚治(大村薫店主)は「身体にやさしくておいしいごはん」をモットーにした、和食と鮨の店。30年ほど前から、魚は天然物、調味料は無添加のものを使用しており、自然食を味わえる店のパイオニアでもある。

「今はねニシンが旬。2月ごろまでおいしいですよ」と、店主の薫さん(65)。お刺身定食(値段は時価。この日は1080円)をお願いした。

魚はこの道50年近くになる薫さんがさばく。たっぷり盛られた新鮮なニシンの味は言わずもがな。もずくの吸い物、切り干し大根、カズノコの焼物、羽釜で炊いたごはん…どれも抜群においしい。
鮨は1カンから注文できる。マグロの赤身、甘えび、玉子をいただくとこれまた美味。「本物の材料を使えば、手をかけなくてもおいしいのよ」と店主の妻、夏子さん(62)。熊本産の菜種油、長崎産のチョーコー醤油、福井産の老梅酢など、丁寧に作られたものを選んでいる。

良いものを厳選して使えば当然原価は高くなるだろうが、にぎり鮨は並1080円から味わえるなど、値段は決して高くない。「誰にでも気軽に来てほしい」という思いから、長男の七海さん(37)と長女、風生さん(33)とともに、家族で店を切り盛りすることで、価格をギリギリまで抑えているのだという。

食後に国産果実100%のザクロシャーベット(320円)をいただくと、酸っぱい中に複雑な甘み。ザクロを絞って凍らせただけだというのが信じられない。オーガニックのコーヒーや紅茶も用意しており、喫茶店のように利用する人も多いのだとか。「常連の方はゆっくりしたいから、人には教えたくないなんていうのよ」と笑う夏子さん。…その気持ち、とても分かる。自分だけのものにしたい、本物の良さがあるのだ。

あきる野市五日市68。木~日曜営業、月~水曜は予約があれば営業する。営業時間は午前11時半~午後9時半。店内24席(離れの座敷もある)。出前も可。駐車場あり。問い合わせは042(596)0101まで。(佐々木)