日本一観光トイレがきれいなまち奥多摩

トイレ大 行く先々でだれもがお世話になるトイレ。特に観光地のトイレ事情は気になるところだ。観光立町を掲げる奥多摩町は今年度から、「クリーンキーパー」と呼ぶ専門の清掃員を置いて町内の観光用公衆トイレを徹底的にきれいにする事業に着手した。誇りとやりがいを持って町のトイレをピカピカに磨き上げる5人のクリーンキーパーを、奥多摩駅前のトイレに訪ねた。(伊藤)

 

 

クリーンキーパーが町を巡回清掃
古くてもきれいなトイレに
見えないところもピカピカ
約束の時間に現れたのは、2台の軽ワゴン車。白い車体のドアの部分に緑の文字で「日本一観光用公衆トイレがきれいなまち」とある。色ちがいのストライプシャツとチノパン、おしゃれな帽子に長靴姿の男性が5人、車から降り立ち、手際良く身支度を整えると、早速女子トイレで掃除を実演してくれた。
その動きのこなれたこと。1人が汚物入れを持ち出したかと思えば、すかさず別の1人が水を流してタイルを磨き始める。ブラシとスポンジで便器を磨く人、洗面台の鏡を拭く人、壁や天井のほこりを払う人…連携のとれた機敏な動きで、20分ほどで掃除を完了させた。
手早く丁寧な作業は見ているだけで気持ちがいい。ドアの縁や洗面台の下の排水管、汚物入れまでも塩素水で拭き、床の水は特殊な掃除機で吸い取って仕上げる。トイレの中だけでなく、建物についた蜘蛛の巣や周囲の植え込みにも気を配り、外観も含めてきれいにするよう心がけているという。
5人は町の第3セクター奥多摩総合開発㈱の社員で細谷浩さん(47)、望田好則さん(45)、大井朋幸さん(42)、原島辰司さん(40)、黒澤政樹さん(33)。同社が町のトイレ清掃業務を受注するにあたり、新採用者を含め若手5人がクリーンキーパーに抜擢された。
通常は2人1組で奥多摩駅、白丸、鳩ノ巣など町内20カ所の主要な公衆トイレを巡回し、1日平均12カ所を清掃する。休日前後の金曜と月曜は念入りに、休日と5月の連休や盆休みなど観光客で込み合う期間は1回の清掃時間を短く、回数を多めに巡回している。
4月の事業開始前に中日本高速道路の清掃員の下で実務研修を積み、掃除のコツを教わった。比較的新しい高速道路のトイレと比べ古くて汚れも年季の入った町のトイレは、習ったことを実践するだけでは掃除が行き届かず、床の乾燥に掃除機を使うなど独自の工夫を加えてノウハウを確立したという。
クリーンキーパーが導入されるまで、町内の公衆トイレの清掃は、多くは自治会やスポーツ団体などに委ねられていた。中には人の手の入らない場所もあり、尿石のこびりついた便器や蜘蛛の巣だらけの天井は当たり前。汚れもにおいも「ひどい状態」だったという。それが今では「いつ入ってもきれい」と、使う人に喜ばれるトイレになった。
年長清掃員の細谷さんは「期間と箇所を決めて、徹底的に磨き上げるようにしている。真鍮の水道管の水垢がとれてきれいなった時などはうれしい」。望田さん、黒澤さんもお客さんから直接届く感謝の声が励みになっているという。
「せっかくやるならただの清掃員にはなりたくない」という大井さんは身だしなみにもこだわる。地味で汚いなどトイレ掃除の負のイメージを払拭しようと、明るくおしゃれな制服を提案。採用されたストライプのシャツは町民にも好評だ。「『古い』と『汚い』は別物。古くてもきれいなトイレにしたい」と力を込める。
掃除のたびにきれいになっていくトイレだが、ひとつ残念なことがある。レジャー客によるゴミの置き去りだ。掃除が行き届いているだけに、心ない行為が際立って残念に映る。
奥多摩のトイレからゴミがなくなることが、5人の今の切実な願いだ。

奥多摩トイレの基本情報
ハード面の取り組みは
 奥多摩町内には42の観光用公衆トイレがある。このうち8カ所が2016年度に改修済み。17年度は、残り34カ所のうち22カ所について改修に向けた設計を行う。設計費として17年度当初予算に2000万円が計上されている。
それにしても、人口約5200人の町に42もの公衆トイレがあるのは驚異的。町の担当者によると、町は観光客を誘致するため昭和60年代ごろから積極的にトイレの設置に取り組んできたという。改修に際しては、リュックを背負った登山客が動きやすいよう1部屋の空間を広めに確保するなど、使う人のニーズに合わせた設計を取り入れる計画。