白ワインのような日本酒を醸造 石川酒造の若き杜氏 前迫晃一さん(34)
今年創業155年を迎える石川酒造(福生市、石川彌八郎社長)で、代表銘柄酒の「多満自慢」とはまったく別物の白ワインのような日本酒を造った。リンゴのような爽やかな酸味を醸す純米大吟醸酒で、女性や普段日本酒を飲まない層にも受けがいい。
杜氏本人は、売れ行き好調の報に特に動じる様子もない。「正直に言うと、自分が造った酒が売れるかどうかということより、いろんな発酵を見てみたいという気持ちの方が強い」と打ち明ける。その純粋な好奇心が新たな酒造りの原動力となっている。
東京農業大学応用生物科学部醸造科学科を卒業後、浪人時代にアルバイトで縁のあった同社に24歳で入社。蔵人を7年経験し、31歳の若さで杜氏に抜擢された。「自分では40代半ばごろまでになれたらいいなと思っていたんですが、あまりに早くてびっくりしました」と振り返る。
大学で共に杜氏をめざした同期の中で一番早くその座に就いた喜び半分、不安も大きかった。だが、「社長が決めたことだから」と腹を決めて取り組んだ。
初年度の仕込みで生産量を大きく減らす大失敗を演じたものの、めげることなく原因を分析し次に生かした。余計なプライドは捨て、先輩蔵人や酒造りの勉強会で知り合った他社の蔵人などに疑問点を聞くことで経験の浅さを補っている。
日本酒だけでなくビールもワインも、アルコール類は何でもたしなむ。発酵という点では味噌や醤油にも興味はある。そんな中で日本酒造りを生涯の職に選んだのは、「日本酒の発酵が一番複雑だから」。例えば扱う酵母でも、今回使ったりんご酸を多く生成する酵母のように発酵力が弱く、やや扱いづらいものほど面白みを感じるという。
今回の挑戦を皮切りに、「日本酒らしくない新しい日本酒」を世に出していきたいという。「『多満自慢』は『多満自慢』として、ぶれない味を提供しながら、一方で、あの杜氏はちょっと頭がおかしいんじゃないかと言われるくらいやってみたいですね」。 (伊藤)