福生 石川酒造 ついにワインを仕込む【連載●あとがき】

文・石川彌八郎(石川酒造株式会社代表取締役 蔵元)、ブルースハーモニカ奏者
文・石川彌八郎(石川酒造株式会社代表取締役 蔵元)、ブルースハーモニカ奏者

 ビールを始めたのもワインを始めたのも、僕が国税庁醸造試験所にいたからかもしれない。

 僕がいた国税庁醸造試験所の第7研究室は、原料米、つまり酒米の研究室であった。醸造試験所には日本中のさまざまな酒類業界から研究生が派遣されていた。大手のビールメーカーの研究員もいた。いつしか僕はビールにも興味を持ち始めた。

 その隣は第3研究室で、ワインの研究室であった。ある日、第3研究室の室長戸塚昭先生からワインの会に誘われた。同研究室の山本奈美先生がフランス留学から帰国し、買ってきたワインの試飲会であった。会費は2万円。社会人2年目の僕にとっては大きな出費だったが、ワインはどれもとてもおいしかった。

 それもそのはずだ。出てきたワインはサンテミリオンが中心で、フィジャック、シュバルブラン、オーゾンヌ、シャトー・ペトリウス……。年代違いもあり、都合8種類ほどあった。

 その銘柄を考えると、今から思えば参加費は考えられないほど安価だった。思い切って参加して本当に良かった。それより、なんと恐ろしいことに、当時の僕は、その銘柄を一つも知ることもなく、試飲していたのであった。

 山本先生はその後結婚し性を後藤と改めた。そして、独立行政法人酒類総合研究所の理事長をお勤めになった。当時、僕がいた国税庁醸造試験所は、酒類総合研究所の前身である。