ルポ:立川けやき座 観劇のすすめ 安価、手軽に活力チャージ

三代目座長の橘大五郎さんと中原社長
三代目座長の橘大五郎さんと中原社長

 かねて気になっていた大衆演劇場「立川けやき座」。このたび劇場を運営する五光建設(あきる野市山田)の中原聡美社長の解説付きという機会を得て、未知の空間に足を踏み入れた。

 4月は明るい人情劇と豪華な創作ショーで人気を集める橘菊太郎劇団の公演。私が訪ねた4月4日の夜の部は、三代目座長の橘大五郎さんが主役を張る男気芝居「江戸の黒豹」だった。あらすじも役者の名前も知らないまま見始めたものの、分かりやすいストーリー展開で、役者のなめらかな身ごなし、声の良さにどんどん引き込まれていった。

 決めぜりふ、決めポーズの場面では客席から「大五郎」「小次郎」などと威勢のいい掛け声。会場のボルテージが上がる。すかさず中原さんが、大衆演劇の世界では掛け声を「ハンチョウ」と呼ぶことや、歌舞伎と違って誰でも掛け声をかけていい(当面はマスク着用)と教えてくれた。

 続く舞踊ショーには芝居で出番の少なかった役者も華美な衣装で次々登場。推しの役者にご祝儀を渡すのが観劇の楽しみの一つでもあるようで、花道に来た役者に客がさっと駆け寄り、胸元にご祝儀を差し込む様子を新鮮な思いで眺めた。

 周囲を見渡すと総菜や菓子をつまみながら観劇する人、ビールを飲む人、カメラで舞台を追う人、途中で会場を出て行く人や入って来る人もいた。作法を知らないことで気後れしていたが、周囲の迷惑にならないことを除けば、堅苦しいルールは何もないことが分かりほっとした。

観劇初心者にもわかりやすいストーリー展開
観劇初心者にもわかりやすいストーリー展開

 芝居と舞踊ショーでめくるめく3時間。終演直後の感想は「明日も仕事、がんばろう」。不思議な爽快感が身を包んだ。

 座長の大五郎さんによると、「それこそが大衆演劇の狙いとするところ。舞台は明日の活力。自分たちもショーを楽しんでいるが、お客さんに『元気が出た』と言われるのが一番うれしい」という。「2000円前後の安い値段で気楽に楽しめるのが大衆演劇の魅力。役者とお客さんの距離の近さも醍醐味の一つです。花見に行くような感覚で気軽に劇場を訪ねてほしい」と来場を呼びかけた。(伊藤)