健康を支える「地域の力」 奥多摩町の保健推進員の活躍

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会場の前で、栗田さん、片倉医師、舟山さん、山本さん、中村看護師(左から)

西多摩地区の中でもっとも高齢化率が進む奥多摩町(65歳以上人口49・1%、平成30年4月1日現在)。町内の医療機関は、町立奥多摩病院のほか、診療所が5カ所(歯科2カ所含む)あるのみで、診療科も限られ、医療資源としては決して恵まれた環境とは言えない。通院や入院のため、青梅など近隣地域まで行かざるを得ない場合も多い。
一方で奥多摩町では、住民たちの手による「健康づくり活動」が、顔の見える関係の中で活発に行われている。その中心的役割を担っているのが、町内の21自治会ごとに選出されている「保健推進員」の存在だ。
◆「認知症」を知る講演会の開催
3月半ば、町内川井地区では、保健推進員主催の「認知症」をテーマにした講演会が開かれた。講師には、町内の双葉会診療所所長の片倉和彦医師(56)が招かれ、地区の住民、町の保健師など23人が参加した。
「今日は『認知症だいじっけん』をしてみたいと思います」という片倉医師のにこやかなリードに、会場はざわざわ。参加者全員が即席のお面で表情を隠し、「うれしさ」「悲しさ」「怒り」そして「深い喪失」を身体の動きのみで表現することに挑戦した。「うれしさ」では身体が広がり、「悲しさ」はうつむき、「怒り」は力み、そして「喪失」は身体の動きが止まる。参加者は、単なる座学のみでない内容に、認知症の人の持つ、不安や喪失感による身体そして心の動きの変化を体感していく。
「認知症の人は不安でいっぱいなんです。夕方暗くなって、自分の家にいるのに『帰る』と言って出て行こうとする。その時、『ここはあなたの家でしょ』と正しいことを言って聞かせるのでなく、『では送って行きましょう』と外を一回りして戻ってくる。そんな『説得よりも納得』の対応が、認知症の人の不安を和らげてくれるはず」と片倉医師は参加者に語りかけた。
◆「必要とする情報」を保健推進員自身が選定
企画したのは川井地区の保健推進員の栗田多美枝さん(63)、山本祝子さん(58)、舟山鈴子さん(59)。「今、自分自身や周りの人たちが、家族の認知症介護に直面している。多くの人が必要としている事柄をテーマとして選んだ」と栗田さんは話す。
昨年度、奥多摩町内では保健推進員による健康づくり活動が13回実施された。内容は「熱中症予防」「感染症対策」についての講話、「体操教室」「ヨガ」「ウオーキング」など、保健推進員自らが、町の保健師などの助言を得ながら設定した。会では毎回、茶話会などの時間も用意され、地域の交流の場でもある。
講演会に参加していた、川井地区在住の工藤智子さん(62)、藤野志津子さん(71)は、「この講座は、健康にまつわる情報を専門家から直接聞くことができ、質問もできるという大切な機会。知っておくべき情報を、繰り返し取り上げてほしい」と話す。
◆地域包括支援センターの認知症地域支援推進員
今回の講演会には、奥多摩町地域包括支援センターの認知症地域支援推進員の中村清美さん(看護師)が参加し、町の認知症カフェや家族介護者の会について、参加者に紹介した。「奥多摩で生活してきた人が、病気になっても地域での暮らしが続けられること、そして介護を担う家族を支えることが認知症地域支援推進員としての私の役割。認知症が疑われても、医療機関をスムーズに受診することは難しいのが現実。地域をたびたび訪れ、ちょっとした変化から様々な問題をキャッチしていきたい」と、行政からのサポート体制の存在もアピールした。 (澤村)

 「保健推進員とは」
「保健推進員」「健康づくり推進員」などの名称で、地域に密着した健康づくりのための実践活動を目的に自治体が任意で設置している。奥多摩町では任期2年として自治会長が推薦し、首長が委嘱する。健康づくり活動、健診受診の促進、高齢者の見守り、健康関連の情報誌の発行などを行う。