ひと 場所 再訪 下積み5年、 一人前の宮大工へ 萱場けやきさん20歳に
竪穴式住居を自作 めざすは宮大工 絵本コンクール最高賞の萱場けやきさん
2016年10月▶▶▶2022年1月
最初の取材時、中学3年だった萱場けやきさんは20歳になり、今年成人式を迎えた。一人前の宮大工になるため、現在も寺社建築専門の㈱鵤工舎(栃木県)で修業の日々を送っている。
4月で入社から丸5年。細身だった体にはしっかりと筋肉がつき、資材運びなどの力仕事もずいぶんこなしてきたことが想像される。
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入社後の3年間はまかないと掃除に明け暮れた。一番多いときには14、15人分の朝・夕食と弁当づくりを任され、母親の明子さんに料理のレシピを尋ねることもしばしば。「スーパーで買い出し中に電話でレシピを聞かれることが多く、なんだか主婦友と話しているようでした」と明るく話す明子さんだが、当時は息子の暮らしぶりがわずかな電話の会話からしか分からず、心配でならなかった。聞きたいことは山ほどあったが、「けやきの足を引っ張らないように」とぐっとこらえて見守ったという。
15人分の食事など一人で作ったことがないと感心する記者に、けやきさんは「先輩らも皆やってきたことやから」と至ってたんたんと応じる。「20人分のまかないを作った人もおって、カレーを火にかけてもなかなか温まらんかったらしい」と会社の工場があり、自身も長く滞在している奈良の話し方で教えてくれた。
食事の仕込みが深夜に及ぶことがあっても、朝は始業の7時に間に合うように朝食を出す。睡魔とたたかう日々を辛いと感じるときも「中卒で辞めたらほかに行く場所はない」と自分を追い詰め踏ん張った。次第に現場で作業に加わる機会が増え、大工仕事も少しずつ身につけられるようになった。
下積みで5年が過ぎようとする今、職人の生活リズムや会社の風土にも慣れ、趣味で始めたギターをつまびく余裕も出てきた。高校卒業後に入社した同じ年の後輩を見るにつけ、「中卒で入社してよかった。3年の差は大きい」と強く感じるという。
親心から高校進学を勧めた明子さんも「やりたいことが明確にあり、スポンジのように何でも吸収する時期に高校に行かせていたらもったいなかった」と息子の選択を尊重して正解だったと振り返る。
ちなみに自作の竪穴式住居はけやきさんが巣立った後、明子さんが風雪のたびに修復して守ってきたが、昨年暮れにとうとう傾いてしまった。家族で相談し、けやきさん20歳の節目に思い切って解体した。