著者と出版社、同じ土俵で良書を

たまに出会う

 西多摩から少し視野を広げ、読者の皆さんの生活圏内である南・北多摩の魅力的な企業や人、取り組みなどを紹介する連載です。

創業1年 共創出版の「ハレル舎」(国立市)

 同じ出版社に勤めていた編集者とデザイナーの女性2人が昨年5月、国立市に小さな出版社を立ち上げた。その名はハレル舎。本作りに関わる人たちと心が「晴れる」瞬間をともに作っていきたいとの思いを、おめでたい響きに重ねた。出版社と著者が企画・費用負担の両面で協力する「共創出版」の手法で、長く読まれる本を生み出していきたいという。

 共創出版は、著者が費用を負担し自由に書籍を作る自費出版と、著者の費用負担はない代わりに出版社の意向が強く反映される商業出版の中間にある出版方法。ハレル舎は、読者目線で著者の書きたいテーマや独自性を見極め、編集やデザイン、流通ルートの確保などを分担。出版・販売まで伴走する。費用は初版、増版など段階に応じて双方で割合を決め負担する。

 同社の春山はるなさんはデザイナー、平田美保さんは編集者として前職時代からともに本作りを手がけてきた。2023年、同時期に契約社員の更新を迎えた2人は退職を選んだものの出版業への思い捨てがたく、2人で本作りを続けることに。ただ、著者本人が満足して終わってしまうケースの多い自費出版に対しても、出版社主導であるがゆえに著者の意向が反映されにくい商業出版に対しても思うところがあった。著者が書きたいものと読者が読みたいものが一致する手法を模索し、共創出版に取り組むことにした。

おおくにたま鍼灸院1階にあるハレル舎で
取材に応じる春山さん(左)と平田さん

 前職を含めこれまで100冊を超す本を編集してきたという平田さんは「著者と出版社のどちらが上ということではなく、同じ土俵で一緒に良いものを作っていきたい」という。ウェブデザインも手がける春山さんは、無限に手直しできるウェブ制作に対し一度印刷されればやり直しのきかない本作りの厳しさを認識しつつ、「形が残る」という部分に大きな価値を感じている。

 出版不況の時代、敢えて再びこの業界に身を置くことに不安もあるという2人だが、紙のぬくもり、文字の力を信じる。本ごとに外部の仲間とチームを組んで制作することを楽しんでいる。現在は本の制作を含めイベントなどを企画中だ。

 同社では定期的に本作りの相談会も行っている。ウェブサイトを参照。(https://hareru-sha.com)(伊藤)