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東京西部 西多摩8市町村の地域紙 タブロイド版/毎週木曜発行

【コラボ】ME TIME JAPAN×西の風 自分の言葉とリズムで働く女たちVol.4 多摩唯一の芸者文化を受け継ぐ

2025年8月28日

 西多摩と南・北多摩の人をつなげたい——。そんな想いから、西多摩の地域メディア「西の風」と立川を拠点にする英字サイト「ミータイム」は読者の皆さんの生活圏内である南・北多摩の魅力的な女性たちの取り組みを紹介する連載をお届けします。月1回のペースで続けていきます。


めぐみさん   (八王子芸者、置屋「ゆき乃恵」主人)


多摩唯一の芸者文化を受け継ぐ

 国内外から多くの人が訪れる高尾山。その玄関口として知られる八王子だが、絹産業や芸妓文化が深く根付く歴史的な地域でもある。大正時代から戦後の1950年代にかけて、八王子は織物産業の中心地として栄え、多摩地域の経済を牽引した。経済の隆盛は文化の発展を促し、中町地区には多摩地域唯一の花街が形成され、全国の商人たちが三味線や日本舞踊で芸妓たちのもてなしを受ける場として賑わった。しかし1980年代半ば以降、輸入染料の普及などの影響で国内の織物産業は衰退。八王子の織物業も例外ではなかった。花街の華やかさも次第に失われるなか、一人の女性が芸妓の道を志し、今もその伝統を守り続けている。

 現在、八王子の芸妓文化の中心を担う「ゆき乃恵」主人・めぐみさんは、1980年代半ばに芸妓の世界へ入門。地元の料亭で接客をしていた折、置屋「三ゆき家」のお母さん(主人)に誘われたのがきっかけ。芸妓の道に入った当初は、着物の美しさや女性らしい所作、古い映画に映る日本の美に惹かれていたという。しかし、修行を重ねるうちに、技を極めることへの情熱が強まっていった。昼は日本舞踊や三味線の稽古に打ち込み、夜はお座敷で客人にもてなしの心と遊びの所作を学んだ。特に惹かれたのは、先輩芸妓たちの自然で力みのない所作に宿る儚さや哀愁だった。見る者を惹きつける独特の美しい姿を目指して努力を重ねた。

 さらにその好奇心は伝統の所作や習慣にも及ぶ。酒の燗は電子レンジではなく、銅壺でゆっくりと温めるところには「待つ」ことの豊かさを感じた。花街は言葉遣いも独特の作法があり、縁起の悪い言葉や音を避ける習慣が根付いている。例えば「死」と同じ音を含む言葉は避けられ、寿司は「おすもじ」、醤油は「むらさき」と呼ばれる。

 八王子の芸妓は東京の赤坂や新橋などの花街と異なり、地元の祭りや学校行事、葬儀、結婚式や誕生日、婦人会の集まりといった地域の多様な場面でもてなしを行う。地域に根ざした存在として親しみを集め、芸妓を地域の誇りと考えている地元住民もいる。

 芸妓の道を単なる職業と捉えず、一つの生き方として後進の指導や花街の存続に情熱を注ぐ。芸術の磨き方については、才能に慢心せず謙虚でいることが真の美につながると考えている。

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