3歳でピアノ、5歳でドラムに出会い、気づけば日の出町の自然の中で、誰にも邪魔されずに音楽と向き合う毎日を送っていた。中学1年で出会った、ある有名ジャズドラマーの一言が、彼を東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校(藝高)という狭き門へと導く。現在23歳、音楽家・プロデューサーとして海外からも声がかかる叶雅久(かのう・がく)さん。「人と比べない」「比べるのは昨日の自分だけ」——同じ地域に暮らす中学生・小学生のみなさんに、夢を見つけ、育てていくためのヒントを聞いた。
「昨日の自分より今日の自分」——叶雅久さん
■ 原点は、日の出町の自然の中
叶雅久さんは、生まれてからずっと日の出町で暮らしている。3歳のころからピアノに触れ、5歳でドラムを始めると、10歳で多重録音と作曲に、13歳ではアナログシンセサイザーにも挑戦するようになった。
「日の出は環境としてすごくいいんですよね。都内だといろんなものがあると思うんですけど、僕は本当に、この自然の中で、音楽が面白いなと思ってずっとやってきました」
都心の便利さより、何にも邪魔されずに一つのことに集中できる環境。それが、幼いころから音楽にのめり込んだ土台になった。今も制作に行き詰まると外の空気を吸いに出るという叶さんにとって、日の出町は「創作のホームグラウンド」そのものだ。
■ 中学1年、ジャズドラマーとの出会いが進路を変えた
転機は中学1年のとき。あるジャズライブに足を運んだところ、終演後、日本を代表するジャズドラマーの一人が声をかけてきた。「こんな学校があるけど、行かない?」。それが「藝高」だった。
それまで通っていた私立の一貫校は、他校を受験すると後戻りができない仕組み。大好きな学校を離れてまで挑戦する価値があるのか、親子で1年以上悩んだという。それでも、「自分のベストをやることが何よりも重要だと思っていた」と、合格の確証がないまま受験を決意。見事、狭き門を突破し、そのまま東京藝術大学に進学した。
「自信は全然なかったです。合格する確証なんてものは全然ない。でも、自分のベストをやるってことが何よりも重要なことだと思っていました」
■ 「年齢を売るな」——5歳からの教え
幼いころから周囲に「神童」と呼ばれることもあったという叶さん。だが、5歳から習っていたドラムの先生は、「年齢を売り物にするな」「音楽は一人ではできない」と、親にも固く伝えていたという。年齢のインパクトだけで注目を集めても、その賞味期限は短い——そんな教えを胸に、叶さんは実力そのものを磨くことに向き合ってきた。中学・高校時代にはすでにプロのジャズミュージシャンからドラムの仕事を頼まれ、ミュージシャンとしての出演料を受け取る経験も重ねてきている。
■ 23歳、世界へ広がる活動
現在はドラム・鍵盤の演奏に加え、作曲・編曲、プロデュース、多重録音によるソロ制作まで、全てを一人で手がける音楽家として活動している。1stアルバム「Experimental Jazz」(2022)に続き、2026年には「Experimental Jazz II」をリリース。これまでに、PYRAMID(鳥山雄司・神保彰)、KIRINJI(堀込高樹)、けもの(青羊)など、ジャンルを越えた数々のアーティストと共演・レコーディングを重ねてきた。さらに、イスラエル出身でLAを拠点とするドラマー、Roni Kaspiとの共同制作アルバムも近く発表される予定だ。
パソコン1台で音楽が作れてしまう時代に、あえて実機での演奏にこだわるのも叶さんらしいところ。ドラム、シンセサイザー、ローズピアノ、クラビネット、ボコーダーなど、楽曲の音の98%を打ち込みではなく実際の演奏で収録しているという。「人間ならではの揺らぎや表現」を大切にする、職人気質が際立つ制作スタイルだ。
「音楽という分野はすごく広いので、その中でいろいろなことをやっていて、飽きることはなかったですね」
ロック、ジャズ、多重録音、シンセサイザー、ボーカルを”演奏”する「ボコーダー」まで——一つの軸を貫きながら枝葉を広げてきたことが、今の幅広い活躍につながっている。ライブでは、ジャズミュージシャンならではの自在なインタープレイ(音と音での会話)で曲を展開するプロジェクト「SLIDEDGE」として、Blue Note Placeをはじめ各地のステージに立ってきた。2026年冬からは、一人で挑む新しいライブパフォーマンスも始める予定だ。
■ 先輩から中学生へ 目標を持つことの効用
「好きなことがない」「何を目標にすればいいかわからない」——そんな後輩たちに向けて、叶さんはこう語る。
「何が好きだって全然いいんです。自分が面白いとか楽しいと思うことが一つでもあった方が、人生は絶対楽しいと思うので。ただ、大事なのは、人と比べないという自分自身のマインドセットです」
大切にしているのは、「昨日の自分より今日の自分」という物差し。昨日できなかったことが今日できるようになった。昨日知らなかったことを今日一つ知った。その小さな成長を積み重ねていく感覚こそが、目標を育てていく力になるという。
「とんでもなく上手い人を見て、今すぐそれになろうと思っても、絶対になれない。その人はどうやってやっているのかな、と一個ずつ技を研究して、自分の能力を上げていく。それがいいんじゃないかなと思います」
*叶さんの演奏の映像は下のURLから視聴できる。
https://www.youtube.com/@gakukano
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