当コーナーは、西武信用金庫と西多摩の地域メディア西の風新聞社とのタイアップ企画です。3年目の2026年度は「若手経営者」「女性後継者」「100年企業」「個性豊かな名物社長」などがテーマ。西武信用金庫の取引先を支店担当者と本紙記者の伊藤寛子が訪ねます。
勘違いから始まった職人道
「シールの角で手を切らないでください」。シーリング工事会社Pシールの中澤紀之社長(54)が現場で放つ決め台詞は、それだけ仕上げの角がきちんと立っていて、技術が高いことを意味する。「社長である前に職人」を自負し、昼食を食べながら惚れ惚れと眺めていられるレベルで美しい仕上げを徹底している。
手先が器用で絵が得意。もともと適正があったかもしれないが、この業界に入ったのは全くの偶然から。20代、勤務先の飲食店が突然廃業し、求人広告で見た「シール」の文字を「シールを作る会社」と勘違いして入社したのがシーリングの会社だった。「我こそ最強」を自認する職人集団でひたすら腕を磨き、誰にも負けない技術を身に付けた。
現場を知り尽くした社長だからこそ、提示する価格に説得力がある。経費の内訳を示し、自社とネット上に並ぶ同業他社を比較するなどして適正価格を裏付ける。相手に納得して自社を選んでもらい、お互い気持ちよく付き合える関係性を重要視している。
仕事が全力ならそれ以外にも、趣味の域を超えた高い熱量を持って取り組む。絵や音楽、バイクのほか、剣道は七段の腕前だ。「よく『何をやってる人ですか』と聞かれますが、自分の中に仕事とそれ以外の区別はないんです。強いて言うなら『本職は人間』です。岡本太郎さんの有名な言葉ですが、大好きです」
ビジネス本や自己啓発本を好む読書家でもあり、読んだ本の内容を人に話すことで自分のものにする。ハマってしまうのが怖くて遠避けていた小説を最近「解禁」し、アウトプットと称して自分でも短編小説を書くようになった。3人の子と妻とは会話の絶えない仲良し家族だが、ふだんは一人で過ごす時間が圧倒的に多い。飲み会の二次会には行かないなどルールを決めて、自分を深める時間に充てている。
求めているのは未知の自分との出会いやワクワクする体験。先日、ある国の大使館から仕事の依頼があった。経緯は不明だが、ホームページが評価されたのか正式発注につながり、都心の大使館を訪ねた。「この会社をやっていなかったら、こんなワクワクする出会いはなかった」と、今後も会社を土台に、海外展開や他国の大使館への営業など、まだ見ぬ可能性を探りたいという。
1日のおわりに、その日「美しい」と感じたものを日記に残す習慣がある。ただ「美しい」で終わらせず、目にしたものから何を連想し、それが何と結びついて心が動いたのかを掘り下げて言語化する。そうして常に自分を見つめずにはいられない。なぜなら「本職は人間」だから。
【プロフィール】
中澤紀之(なかざわ のりゆき)
1971年山梨県甲府市生まれ。個人事業主、有限会社を経て2006年株式会社Pシール。美術大学中退。絵が得意なことからpainter(絵描き)の「P」を取って社名とし、愛称は「Pさん」。著書に独自の剣道観を綴ったアートブック「剣道ノート」がある。

【訪問者】西武信金 秋川支店 コーディネート担当 渡邉さん(60)
初の新聞取材。中澤社長から防水技術のプライド、多趣味(剣道、ギター、バイク等)のこだわり等をお聞きし、新たな一面が発見できました。西の風新聞の伊藤社長の話の引き出し方は、私の業務にも生かせるもので参考になりました。
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