あきる野のシルク 「美味しいクリーニング屋」へ コロナ機に新たな店づくりに挑戦

支援を申し出た客にシルクドファンディングの仕組みを説明する石井さん
支援を申し出た客にシルクドファンディングの仕組みを説明する石井さん

 あきる野市秋川のクリーニング屋シルク(石井康友店主)は、コロナ禍を機に全国のおいしいものを探し出し客に届ける新事業を経営の柱に加えた。名付けて「美味しいクリーニング屋」。スタートとして1日から独自のファンディング(資金調達)企画も開始。客を巻き込み新たな店づくりを模索する。(伊藤)

 コロナ禍以前からクリーニングの需要は減少を続けている。情報サイト「クリーニングオンライン」によると、1世帯あたりの年間クリーニング代は1995年の1万8000円をピークに年々下がり続け、2021年には4000円台前半を記録。コロナ禍で加速度的に減少している。

 衣類の売れ筋が家庭で洗える服であるという状況を見ても、たとえコロナが収束してもクリーニング需要は減り続けると石井さんはみる。「団塊の世代の引退に伴い需要は減ることは分かっていた。しかし、このコロナ禍で急速に受注が減る中、何もしないと規模の小さなクリーニング店は街から消えてしまう」と恐怖を感じたという。

 今ある店の資源を生かしてできることを考えた末、思いついたのが「全国からおいしいものを取り寄せて、お客さんにおすそ分けする」事業だ。食品の取り扱いは数年前から始めており、客の笑顔を見て手ごたえは感じていた。

全国から集めたおいしい商品の並ぶ棚。まるで雑貨店のような雰囲気
全国から集めたおいしい商品の並ぶ棚。まるで雑貨店のような雰囲気

 熟慮の末、クリーニング業を主軸としたまま本腰を入れてこの事業に取り組んでみようと昨年10月に決意。仕入れや製造元との交渉の時間を作るため、定休日を1日増やして2日とし、勉強会を通じて知り合った全国の異業種仲間や客からの情報などを頼りにおいしいもの探しを始めた。

 そこに立ちはだかったのが資金の壁だ。販売実績の少ない同店が製造元と取引する際、代金は前払いが決まり。1つの商品を仕入れるのに万単位の資金が必要だが、売り上げ減少に加えクレジットや電子決済の普及でとにかく手元に現金がない。仕入れる量を減らせばすぐに品切れになる。

 編み出した打開策が店独自のファンド制度「シルクドファンディング」。代金をお客さんから先に集めて商品を仕入れ、入荷しだい支援金額に応じておいしいものセットで提供し、さらに店で使えるお買い物ポイントを付与するというもの。

 石井さんは「自分にも商人のプライドがあり、足りない資金をお客さんに助けてもらうことには今でも葛藤があります。しかし今は、資金だけでなくお客さんの応援が必要。お客さんを巻き込むことで新しいお店を一緒に作っていきたいという気持ちが強くあり、力を借りることにした」とシルクドファンディングのもうひとつの目標を教えてくれた。

 「コロナ禍は古いビジネスモデルでは乗り越えられない。それぞれの本業を磨きつつ、固定概念に縛られない新しいビジネスモデルを構築する必要がある」と強調。新たなビジネスを模索している他業種とも連携し、個人店の存在価値を示していくという。

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